石黒輝 — 死都日本

2002年に書かれた小説である。小説を読むのは久しぶりだ。10年ぶりかもしれない。久しぶりに読むと面白く、2日で読んでしまった。文庫本で600ページ以上ある大書で、九州の加久藤カルデラが大噴火を起こし、火砕流が九州南部を飲み込んで、未曾有の大惨事となり、日本国破綻の危機に至る災害パニック小説だ。

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この小説には主人公が二人いる。一人が日向大学の黒木助教授であり、もう一人が首相の菅原である。黒木は噴火と対面し、そこから逃げ延び、妻を救いにいくいう一種のパニックヒーローである。一方、菅原は日本国存亡の危機に、政治家として対処する2016年のシン・ゴジラのような役所のヒーローものだ。

特に、黒木のストーリーが面白かった。黒木は火山の噴火をまじかでみながら逃げることになる。そのときに、火山が崩壊していく過程はかなり細かに描写され、とても説得力があった。

一方で、菅原のストーリーには説得力がなかった。かなり精密な政治計画が行われて日本は救われる一歩を作るのだが、こんなことは生じないと確信できる内容だ。特に、東日本大震災時の日本国の対応を見れば、これは無理だと分かる。災害が予測されたとしても、それを汲み取って備えることができるような政治家がいない。原発の津波被害は予測されていたのに、実際にはそれに備えることはできなかったのである。

そもそも、日本の戦後の発展が、大きな災害が起こらなかった時期と重なったことは偶然ではない。これは幸運だったのだ。これは小説にもあったが、自分が前から思っていたことでもある。この小説のような「破局噴火」は有史以降は例がないにせよ、日本人は度々、災害に襲われている。

戦後日本は、ある意味で未来だけをみていることができた安定で幸せな時代だった。今は違う。何が起こるかわからない状態にある。その上で意味のあることをやるためにどうしたらいいか、各人が考えることが必要だ。撤退戦を生き残り、展望を開き、不安定な日々から幸せを感じたい。