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敵を敵と認識しよう:岡田尊司 — マインド・コントロール

岡田尊司のマインドコントロールを読んだ。この本は、とてもよく調べて書いてある。心理学の研究結果や軍事研究結果がわかりやすく引用されていて、マインド・コントロールの歴史的発展の経緯がよく分かる。

人間の意識は案外不安定で、自分の考えていることはふらふらとしていて、容易に他人や自分の周りの環境の影響を受けてしまう。マインド・コントロールはその特性を利用し、他人の心を支配することを指し、その実践方法を指す場合もある。

しかし、フラフラとしている自分の考えも、常に他の影響を受けやすい状態にあるわけではない。通常、見知らぬ他人ではさすがに影響を与えられない。影響を与えるのは信頼する人からの助言である。従って、マインド・コントロールは、信頼関係を利用して騙すことにより可能となる。

人間は社会的な動物であり、コミュニケーションを通じ、絆を深めていきたいと願う。そこでお互いに絆を深めるために、他人の影響を受け入れるのである。実はここに弱点がある。マインド・コントロールするものは、絆を作るふりをして支配する。この欺きを自然とできるものがマキャベリのいう君主であり、より現代的な言葉で言えばサイコパスである。

また、周りが刺激のない何もない環境か、逆に情報に溢れていて集中できない環境に置かれると、マインド・コントロールを受けやすくなる。これは人間の思考は、外側なしでは存在できないことを意味している。もしこの世に一人しかいなくて、五感が全く働かなければ、自分というものは維持できない。これは興味深い実験で、つまり自分というものは、自分だけでは存在できないのだ。他のなにか、他人がいて初めて自分が存在する。

自立心が薄いひとは、マインド・コントロールの影響を受けやすい。しかも、「マインド・コントロールされやすくなること」と「自立できていないこと」がちょうど正のフィードバックによって強化される関係にある。自立できていない人はマインド・コントロールされやすく、マインド・コントロールの結果さらに自立が阻害されるという、お互いが原因と結果になる円環的因果関係である。一旦、このフィードバックにはまってしまうとなかなか抜け出せない。

抜け出すためには、まずはなんとかして、その場から離れることが大事だ。フィードバックループのど真ん中にいるときは、自分ではどうにもならないと思ってしまいがちだが、離れればどうにかなる。渦中にある時はなぜそうなっているか理解できずかわせない攻撃でも、一度離れてゆっくり考えて理解すれば、影響を与えられなくなる。

このように述べると、マインド・コントロールはまるで悪の組織が使う言葉に思えてくるが、しかし、この方法自体は社会、学校教育、健全な宗教でも用いられていることに注意が必要である。悪い言い方で言えば、学校教育は知識を餌にして社会ヒエラルキーを是認させるための訓練の場でもある。震災でパニックを避けるために必要な措置として情報公開を制限したが、それも同じだ。絆という言葉が連呼され、情報が出てこなかったことを覚えていないだろうか。

そして、自殺である。本来生物であれば、死は何よりも恐ろしく避けたいものだ。しかし、震災の年から去年まで東京にいたが、自殺で朝の電車が止まることが多く、とても驚いた。そして、それが普通になってしまっている社会にも。自殺するにしても、わざわざ狙って電車で自殺をする理由が分からない。痛いし、遺族に損害賠償が請求される恐れもある。そこで、電車で自殺する人の多くは社会で働く人で、出社時にふらっと自殺してしまったというのが本当だろう。

しかし、ふらっと自殺するとはどういうことだろうか。具体的なデータを知らないのでこれは想像だが、そういう人は往々にして精神的に追い詰められる環境で働いているのではないか。そして、辞めることもできないでいる。辞めることが、レールから降りることが、学校教育や社会通念を通して、何かとても恐ろしいものとして植え付けられているからだ。その結果、耐えきれなくなりふっと自殺する。。端的に言うと、辞めることが死より恐ろしく感じるということだ。こんな生物として異常なことが頻繁に起こるのは、我々が教育や社会を通して「辞めるな・逃げるな」とマインド・コントロールされているからだと思う。

サイコパスの特徴を持つ上司には本当に注意してほしい。サイコパスは表面的には魅力的で、自分が悪いと思い込ませることに長けている。そして、気遣っているふりをして追い詰めて攻撃するのである。そんな時、逃げることが一番重要だ。その異常な環境から、フィードバック・ループから、逃げる勇気が必要である(マイケル・ジャクソンのThey don’t care about usを聞くべし)。逃げた後に湧いてくる怒りは、そのまま生きる力になる。

今の時代のように、愛なく孤立感が高まり、雑多な情報だけが多い時代においては、特に気をつけなければ、マインド・コントロールされやすくなる。特定の考えに賛同させるような工作活動は、インターネットやテレビを通してもしょっちゅう行われているのだ。発言者の見えない掲示板やまとめサイトと呼ばれるものには、特に注意する必要がある。もちろん、このサイトも含めてブログも丸呑みで信じてはいけない。自分の意見を持ってほしい。

自分の信念を鍛えなければ、周りに流されて生きて行くことになる。信念を鍛えつつ、マインド・コントロールしてくるやつ・組織を友人ではなく敵と認識し、真に信頼出来る「安全地帯」を構築しよう。自分の道を歩いていこう。