堤未果 – ルポ貧困大国アメリカ

最近、あんまり書くことがないので、今まで読んだ本でも紹介する。

タイトル:ルポ貧困大国アメリカ
著者:堤未果

9.11以降、アメリカ貧困層の生活の変化を記録したドキュメンタリーだ。

中間層がなくなり、一部の裕福層と多数の貧困層に分断されたアメリカは、もはや日本がかつて目指していた国ではない。
これはNYのデモで顕在化したが、この本が書かれたのは2008年だ。

古き良きアメリカである1960年代以降、産業の空洞化が進み国内に職がなくなったため、かつて親が中流階級であった世帯でも子供は貧困層に落ちこぼれていく。
この現象については、今までも多くの指摘があったと思うが、この本では個人にスポットを当てたドキュメンタリー形式を取ることで、個々人に降り掛かった時代の変化を具体的に描いている。

特に教育現場の描写は詳しく、貧しい地域の公立学校ではファーストフードばかりでまともな食事は出ず、肥満が多いことが注記されている。家庭においても貧困層にはフードチケットが支給されるが、貧困家庭には食事を作る場所がないところもあるため、ファーストフードばかりが売れるそうである。

高等教育機関についても問題がある。たとえ勉強して学位を得ても、授業料が高く、卒業する頃には平均で1万ドル以上の借金を背負うことになるらしい。また、卒業後の就職活動も容易ではない。ここから考えると、近年の日本の大学はアメリカの後追いをしているだけのようにみえる。

福祉医療についても問題がある。国民皆保険がないアメリカでは民間の保険会社に加盟し会社と折半するが、一度でも大きな病気をすると保険料が非常にあがるため、復帰できずにクビにされてしまうケースもあるらしい。医療保険を民間に任せるのは危険だと筆者は考えている。もちろん保険がきかないケースでは、非常に高額な医療費を支払うため借金しなければならない。

こうやって学校や医療によって借金ができるが、返せない若者は軍に入隊する。もちろん、入隊後はイラクに派兵され、実戦に投入されていた。貧困で抜け出せなくして自尊心をなくし、戦争に向かわせるシステムが構築されている。

この本の最後の方は、無理やり日本の憲法9条に結びつけて、平和憲法を守れ的な締め方をしていて苦笑いだが、内容は全体的に面白かった。2008年初頭に書かれたアメリカの実情は、今、もしくは少し後の日本の姿の一部を映し出しているように感じた。

国際金融資本が世界中を食い荒らしているが、アメリカも例外ではない。現代は国という単位で勝ち負けが決まっているのではなく、対立構造は力を持ったノマド的な一部の資本家と国に縛られる労働者の間にある。

これは、19世紀的な資本主義が復活したことを示しており、ソ連の崩壊がもたらした弊害と言える。もちろんこの視点は先進国の労働者からみたものであり、発展途上国の労働者から見るとまた別の話になるだろう。

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